梅澤真由美

今回インタビューさせていただいたのは、管理会計ラボを設立され、現在1歳の双子のママでもある梅澤真由美さんです。梅澤さんのお話をお聞きする最中、何度も思い出したのはフェイスブック女性COOシェリル・サンドバーグ著『LEAN IN(リーン・イン)』にも出てきた「キャリアとは梯子ではなく、ジャングルジムのようなもの」という言葉でした。「管理会計」「IT」「多店舗展開」といったキーワードに着目しながらお読みいただけますと幸いです。(インタビュー日 2016年7月中旬)

1. プロフィール

(ア) 氏名: 梅澤 真由美
(イ) 所属: 管理会計ラボ 代表
(ウ) 合格年度、当時の年齢: 2002年、24歳
(エ) 略歴: 2002年10月から4年、監査法人トーマツに勤務。2006年に独立し、業務委託により内部監査業務に従事。2007年、日本マクドナルド㈱に入社し、組織内会計士として多様な管理部門経験を積む。2012年、ウォルト・ディズニー・ジャパン㈱にマネージャー待遇で転職。2016年7月、ITベンチャー企業の常勤監査役に選任される。同時に管理会計ラボを設立し、執筆・講演活動を行う。2008年に結婚、2015年に双子を出産し、現在は二児の母。

2. 公認会計士を目指したのはいつで、なぜでしたか?

私は大学卒業後、大学院に進学して農学を学んでいました。農学部在学中に「農業簿記」に触れる機会がありました。内容は原価計算に近く、例えば、「鶏を1羽生産するのにいくらかかるか」を計算します。たまごを買ってきて、エサを与えて・・・といった過程で必要な費用を合算し、按分して算出するのです。私は数字が好きなので、数字で表せる世界は美しく、興味深いと感じました。そこで、大学に通いながら日商簿記検定3級、2級、そして大学院入学と同時に公認会計士試験と勉強を進め、公認会計士になりました。

3. 監査法人トーマツに勤務された後、独立し、その後日本マクドナルド㈱に入社されています。キャリアチェンジのきっかけは何でしたか?

トーマツでは、女性割合が1割程度の部署だったため、女性と相性が良い小売業のクライアントを多く担当していました。それだけでは物足りないと感じ、自ら手をあげて、パブリックセクターの仕事や、ITベンチャー企業の支援にも携わりました。ベンチャー企業が雑居ビルの一室にあるオフィスから立ち上がり、スピード感を持って成長し、上場するまでの経緯を見ることが出来たことは、素晴らしい経験になったと感じています。

最初のキャリアチェンジは、2006年に旧三次試験に合格して公認会計士になった時です。きっかけは、以前一緒に仕事をしていた先輩からIT企業の内部監査に携わってくれないかと依頼されたことです。当時、その会社は諸事情で通常の経営が困難な状況でした。立て直しのために公認会計士による内部監査を希望しているが、引き受けてくれる公認会計士がいないとのことでした。「それならば、私が引き受けよう」と考えました。当時の上司には「なぜ、火中の栗を拾うようなことをするのか」と慰留されましたが、誰かがやるべきだと考えたのです。社員として入社するのではなく、独立して公認会計士事務所を開業し、内部監査室の室長を業務委託形式でお引き受けしました。実務を経験しながら、同年末にはCIA(公認内部監査人)の資格も取得しました。
当事者として手を動かしたいという思いもあり引き受けた仕事でしたが、困難も多かったです。1年間手を尽くしたものの上場は難しい状況となりました。当時28歳だったこともあり、自分自身もまだ組織で学ぶフェーズなのではと感じていた頃、新たな出会いがありました。公認会計士が集う会に参加した際、日本マクドナルド㈱の内部監査室長(公認会計士)に出会ったのです。ちょうど人を探しているということで、お声掛けいただき、採用されました。

組織内会計士を目指す方へのアドバイスになりますが、初めて事業会社に転職する際には、出来れば、公認会計士の上司の下で働ける環境を選ぶと良いです。会計士ならではの強み・弱みを理解してくれているため、お互いの期待ギャップが少ないからです。また、組織に入った会計士が犯しがちなミスを見越し、事前に適切なアドバイスをもらえます。私の場合は「色々と思うことも出てくるかもしれないが、6ヶ月間は会議では発言するな」と言われました。その場ではなぜだろうと思いましたが、言われた通りにして6ヶ月が経過したころ、その真意を肌で感じることが出来ました。公認会計士が「置物の先生」とならずに、組織に溶け込むためには気を付けなければならない点が多くあると、今なら分かります。

4. 日本マクドナルド(2007年~2012年)、ウォルト・ディズニー・ジャパン(2012年~2016年)の2社で組織内会計士を経験されています。お仕事の内容を教えてください。

マクドナルドでは、先述の公認会計士の上司の元、内部監査室に配属されました。2006年末に取得したCIA(公認内部監査人)の資格を生かして業務監査を経験したいと思っていたので、希望通りの配属に喜びました。ところが、入社してからたった2か月で、異動となってしまいました。JSOX導入プロジェクトのチームが結成され、私は3名のチームを率いるチームリーダーに任命されたのです。組織に入ると、このような不本意な異動もあることを実感しました。とはいえ、その結果、知見がある分野で実績をだし、会社に貢献することが出来ました。1年半かけて、JSOXの導入業務を行い、JSOX導入初年度には、私が抜けても他のメンバーだけで回せる状態まで持って行ったのです。
その後、経理→予算管理→経営企画と、管理部門の各部門で経験を積みました。JSOX導入プロジェクトで会社全体の業務プロセスを完全に理解した上で経理に配属されたので、とてもやりやすかったです。ちょうど四半期開示がスタートした時期だったため、当事者として手を動かしたいという希望も叶えることが出来ました。経理の実務経験を積んだことにより、次のフェーズとして、経理と予算管理を効果的に連動させる業務にスムーズに取り掛かることができました。予算管理は、私にとって、それまで経験したことがない新しい分野だったのでとても楽しく感じました。予算管理という未来の会計を扱ったことは、後々、私の強みになっています。
マクドナルドは、2004年にプロ経営者として原田氏が採用される等、企業としても変革が進んでいた時期でした。私を含め、中途採用の社員も多く、ビジネスのドライブ感を味わえました。経営企画の業務では、例えば「ドリンクを値下げすると何が起きるのか」といった、細かい影響額のシミュレーションも求められました。「15分で影響額を出して」などと言われるので、大変でしたが、面白く、やりがいもありました。

マクドナルドでは多様な経験を積むことができて楽しかったのですが、なかなかマネージャーへの昇進が叶いませんでした。そろそろ次のフェーズに進みたいと思い、求人を見ていたところ、ウォルト・ディズニー・ジャパンがマネージャー枠で求人を出しているのを見つけました。以前からディズニーに興味があったこともあり、転職を決意し、ファイナンスを定常化させる業務を行うことになりました。
在籍していたウォルト・ディズニー・ジャパンのディズニーストア部門は、オリエンタルランドが子会社として持っていたディズニーストア運営会社をウォルト・ディズニー社に売却したことで新設された事業部門です。ウォルト・ディズニー社は多店舗展開の知見を有していなかったため、業務の仕組化がこれからというところで、長時間労働が発生していました。私は、監査法人・マクドナルドで多店舗展開事業のナレッジを有していましたので、さっそく改善に取り掛かり、半年で残業ゼロでも回るような仕組みの導入に成功しました。
その後、中国事業展開に1年ほど携わりました。先月(2016年6月)の上海ディズニーランド開園に先立ち、2015年5月に上海でオープンした上海ディズニーストア開店には、ファイナンスの責任者として携わりました。私はオープン2か月前に産休に入ることとなりましたが、チームメンバーが立派に現場を回してくれ、無事に稼働を開始することが出来ました。

5. 2016年の7月に、また大きなキャリアチェンジをされていますね。経緯を教えてください。

今年の7月から、IPOを目指すITベンチャー企業の監査役に就任しました。先方のニーズとして、「IT業界の経験がある人」という点があげられました。私は、過去に公認会計士として、急成長してIPOに成功したケースと、残念ながらIPOに至らず頓挫してしまった両方のケースを見ていましたから、先方の要望にもぴったりだと思います。
同時に、自分の事業として管理会計ラボを起ち上げました。以前から、40歳くらいになったらアカデミックなことをやりたいと考えていたのです。ディズニー勤務時代に、スクーリングとオンラインでオーストラリアのボンド大学でMBAを取得するなど、徐々に準備を進めていました。実は、勉強中に妊娠し、つわりが最もひどい時期が修士論文を作成する時期に当たってしまうという困難もありました。そのため、発表の場には行くことが出来なかったのですが、オンラインでの発表を特別に認めてもらい無事に修了することが出来ました。

このようなキャリアチェンジをした理由は、大きく2つあります。1つは、子どもたちの存在です。今しかない育児の時間を充実させ、優先したいという気持ちが強くなったことです。
もう1つは、新しいことをしたいという気持ちです。同じことばかりをしていても成長がありませんから、常にチャレンジしたいと思っています。今後は、執筆や講演を積極的に行い、いずれは大学・大学院の非常勤講師にもトライしてみたいと思っています。

6. 公認会計士になってから今までで、最も失敗したと感じたのはどんな時で、その反省をどのように生かしていますか?

監査法人にいた頃、年次は下だけれど年上の男性とトラブルになったことがありました。私の言い方でプライドが傷ついてしまったようで、「梅澤さんからは指示を出されたくない」と言われてしまったのです。男性の中には、プライドが高い人もいることに気付き、その点に配慮していなかったことを反省しました。
それ以来、特に男性に対する態度には気をつかっています。トラブルが大きくなる前に気付くように、様子をうかがうようにして、業務に支障をきたさないように気を付けています。

7. マクドナルドではリーダー、ディズニーではマネージャーをつとめられています。昇進の心構え・管理職の心得を教えてください。

昇進すると、より組織に貢献し、結果を出すことが求められます。これを「滅私奉公する」と捉えずに、「自分の居心地の良い場所を作る」と考えると良いと思います。

管理職になると、対内的・対外的に変化があります。まず対内的には、正当に発言のチャンスが与えられるようになります。例えば人が足りない状況になった場合、「派遣の方を入れましょう」といった具体的な提案を行うことができます。提案が退けられる場合でも、説明を求めることが出来るので、納得して働きやすい環境になります。
対外的にも、力を発揮しやすくなります。自分が昇進すれば、自分の上司はさらに立場が高い人になるので、その上司を説得することで組織としての対応が可能になるからです。社外の方との折衝では、他部門の協力が必要となることも増えます。そのような場合には、他部門が「感情で」共感してくれるように、心を込めて伝えると良いでしょう。

女性は会社の決定事項は「理屈」で決まると考える人が多いように思います。反面、うまく行かない場合には感情的になり、涙を流す人もいるなど、どうも両極端になる傾向があります。組織内では、「理屈」と「感情」を使い分けて共感を生み出す「したたかさ」を持つように心がけましょう。

8. 仕事を通じて、どんなことを達成したいですか?

人の成長に貢献したいと思います。私は、大学・資格取得等でのインプットを経て、実務の世界でアウトプットをしてきました。会社でのアウトプットは、プロセスを改善する・業績を改善するといった一元的な貢献でした。今後は、学術的な知識と実務経験の両者を備えた立場から、効果が社会全体に波及するような形でアウトプットを進めていきたいと考えています。

具体的には、管理会計を業績改善につなげる手法や、管理会計と制度会計を連動させる手法について幅広くお伝えしていけたらと考えています。そのことによって、無駄な長時間労働を減らし、より多くの方が、自分の大切なものにじっくりと向き合える、ゆとりのある生活を送れるようになったらいいなと考えています。

9. 最後に、メッセージをお願いします。

私は、決して現状維持を前提にしないようにしています。そのために、1年に1回、入社月を迎える頃に、現在の「会社」と「業務」のそれぞれについて、「継続するか」「継続しないか」を決定するようにしています。借家の賃貸借契約のようなイメージです。契約更新時期が来ると、「更新しようかな、それとも引っ越そうかな」と必ず考えますよね。あれと同じように、現在の仕事について、改めて考えるようにします。そうしないと、無意識のうちに現状維持を前提に仕事について考えるようになり、キャリアも硬直化してしまうからです。

皆さんも、良かったらぜひ、1年に1回、新たな気持ちで現在の仕事に向き合う機会を作ってみてください。それが、より大きな成長へのきっかけになるかもしれません。

梅澤 真由美さんのインタビュー、お楽しみいただけましたでしょうか。
今後も、しなやかにプロフェッショナル人生を謳歌する女性公認会計士のインタビュー記事を、月に1回程度アップしていく予定です。
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