秦美佐子

有価証券報告書の読み方 ディズニー魔法の会計

本日より、女性会計士向け情報提供サービスのひとつとして、自分らしく輝く女性公認会計士へのインタビュー記事を掲載します。初回インタビューをさせていただいたのは、「『本当にいい会社』が一目でわかる有価証券報告書の読み方(2012年)」「ディズニー 魔法の会計(2013年)」など、4冊の著書を出版されている秦美佐子さん。柔らかく可愛らしい外見とピシッと筋の通った内面が不思議なほど自然に溶け合った、魅力的な女性公認会計士です。現在は2歳のお子さんの育児を最優先にしているという秦さんのインタビューをお楽しみください。
(インタビュー日 2016年6月上旬 )

1. プロフィール

(ア) 氏名: 秦 美佐子
(イ) 所属: 公認会計士秦美佐子事務所 所長
(ウ) 合格年度、当時の年齢: 2005年、23歳
(エ) 著書: 4冊(単著)
(オ) 略歴: 2005年から5年間、優成監査法人に勤務。その後、独立して執筆・講演・コンサルティング業務に従事、現在に至る。IPO準備会社のCFO経験も有する。2012年に結婚、現在子どもは2歳。

2. 公認会計士を目指したのはいつで、なぜでしたか?

 私の家庭は両親が共働きだったこともあり、「女性もずっと働くのが当然」と考えていました。女性が活躍するためには資格があった方が有利だと考え、調べたところ、高校生の時に予備校が出している小冊子で公認会計士を知りました。社会・数学が得意だったこともあり、「これだ!」とピンときて公認会計士を目指すことにしました。大学の学部も、公認会計士を意識して政治経済学部を選択しました。

3. 優成監査法人に勤務された後、独立されています。キャリアチェンジのきっかけは何でしたか?

 優成監査法人では、一部上場企業からIPO準備企業まで、幅広いクライアントを担当しました。また、非上場企業でしたがインチャージ、海外出張や本の執筆など、様々な経験を積ませていただきました。しかし、3年目くらいから、他人が作った決算書や組織をチェックするという監査の仕事は、自分にとってずっと続ける仕事ではないと考えるようになりました。
 監査以外の世界を知ろうと、あらゆる講演会やセミナーに参加するようになった27歳の頃、ユニチャームの元会長のお話を聞く機会がありました。その中で「日本の社会は、若者の失敗には寛大だ。28歳までは失敗をしても許されるので、チャレンジするなら28歳くらいまでにすると良い」と聞き、それならば私も今チャレンジしよう!と、監査法人を退所する決断をしました。
 実は私は、その頃、「本を書きたい」という目標を持っていたのです。理由は、公認会計士の持っている有用な知識や情報を世の中に知らせたいと考えていたことと、単純に、本を読むのが好きだということでした。退所してから、自分で出版企画書を書き、10社ほどの出版社に飛び込み営業に行きました。うち1社で企画が通り、出版が実現しました。1年ほどは執筆に集中し、目標通りに本を出すことが出来ました。出版に際しては、優成監査法人で執筆をした経験が生きました。
 

4. 出版された後、どのように仕事が展開し、現在に至りましたか。

 本の販売促進や読者の方向けの講演の依頼を受けるようになりました。また、出版を通して公認会計士等の友人が増え、仕事の依頼をいただくことも増えました。内容は、企業研修や顧問、上場準備会社のCFO等です。
 順調に仕事が増え、やりがいを感じていましたが、またキャリアチェンジのタイミングがやってきました。娘の体調不良です。私は、出産後2か月で娘を保育園に預け、仕事復帰しました。ところが、娘の体調が安定せず、毎週末病院に通う日々が続いたのです。医師に「どうしたら治りますか」と聞いたところ、「集団生活(保育園)をやめれば治ります」と言われました。それも、3人の医師から同じことを言われたのです。娘の体調以上に優先すべきことはありません。娘が1歳になる少し前くらいから、仕事をいくつかお断りし、ペースダウンしました。現在は、育児を優先し、無理なく出来る仕事のみをお引き受けしています。

5. ペースダウンしている現在、どの仕事をお引き受けし、どの仕事をお断りするかは、どのように判断されていますか。

 まず、自分への依存度が高く、突発的な対処が必要なCFOのような仕事はお断りしています。コンサルティングでは、会社が作成した資料を見て助言する仕事はお引き受けします。しかし、社員の方への個別のフォローが必要であったり、誤りがある場合に自分が資料を作り直さなければならないような仕事はお断りしています。「重要」だが「緊急でない」仕事に的を絞ってお引き受けすることで、ご迷惑をおかけせず、プライベートと充実した仕事を両立するように工夫しています。

6. 公認会計士になってから今までで、1番落ち込んだのはいつで、どんなことがあり、どうやって立ち直りましたか?

 J1の時に担当したあるクライアントで、担当者にとても嫌われてしまったことがありました。そのクライアントは業績が低迷しており環境があまり良くなかったことに加え、私自身も未熟な点が多かったこともあり、とてもつらく当たられました。それまでの受験や試験勉強では、やればやるほど成果が出るのが当たり前だったのに、その仕事では、やればやるほど悪口を言われたり暴言をはかれたりして、とても辛かったです。若い女性であることから、先方にとっては苦情を言いやすい対象だったのかもしれません。私もまだコミュニケーションの取り方が分かっていなかったため、例えば「これはバーター取引ではないですか?」などとストレートに聞いてしまい、さらに嫌われてしまいました。
 しかし、「この人に嫌われても、この人の後ろにいる投資家の方々の役には立てる」と考えたり、「この人には嫌がられても、監査チームの人には助かると言ってもらっている」など、視野を広げて考えることで乗り切ることが出来ました。辛い時も、少し視野を広く持つなどすれば、乗り切れるのではないかと思います。

7. 現在、どんなお仕事をしている時が一番楽しいですか?

 企業研修やコンサルティングで、実際にお客様の成果につながった時が楽しいです。例えば、営業職の方に向けたサービスを行う場合には、取引先の決算書の見方をお伝えするだけでなく「具体的にどの会社にどのように営業したら良いか」まで提案させていただくこともあります。その結果、実際に新規の売上が上がったとの報告をいただいた時など、とてもやりがいを感じます。「危ない会社の見抜き方」のようなものよりも、売上や利益につながるような仕事を楽しいと感じています。

8. 仕事を通じて、どんな世の中にしていきたいですか?

 数字に対して苦手意識を持っている人が、それを和らげるようなものをご提供して行きたいです。有価証券報告書は、大変な労力をかけて作られています。同じ労力をかけるのなら、もっと活用してもらいたいと思います。今、日本では、株式投資はパチンコや宝くじのようなギャンブルに近いものと思われています。しかし、有価証券報告書を活用すれば、決して株式投資はギャンブルではないことがご理解いただけると思います。株式市場が活性化することで、公認会計士の存在意義も高まると思います。私一人でなく、公認会計士のみなさんと力を合わせて、そのような世の中にするという目標を達成したいです。

9. 最後に、メッセージをお願いします。

 娘の体調不良もあり、現在の仕事だけを見るとペースダウンしている私ですが、育児から得たものはたくさんあります。私は、子育てや娘とのコミュニケーションを通して価値観が変わりました。育児は、同じことの繰り返しで、目新しさはあまりありません。毎日、尽くして尽くして尽くし続けて、やっと少し応えてもらえる・・・そんなことばかりです。けれど、その生活の中で、理屈では説明できない世界があることを体験し、人に優しくすることを学びました。
 公認会計士には、男女問わず、人を育成するのが苦手な人が多いように思います。このような人も、育児をすることで、自分の価値観を押し付けていてはダメなのだと学ぶことが出来ると思います。特に公認会計士にとっては、ブランクはそれほど怖いものではありません。一見するとキャリアにはマイナスに見えるようなことも、いずれはプラスにすることが出来るので、恐れず色々なことに挑戦して頂きたいと思います。

秦 美佐子さんのインタビュー、お楽しみいただけましたでしょうか。
今後も、しなやかにプロフェッショナル人生を謳歌する女性公認会計士のインタビュー記事を、月に1回程度アップしていく予定です。
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